
病院のそばにある、もうひとつの家。ドナルド・マクドナルド・ハウスを知っていますか?
子供のハウス マクドナルドの取り組み
病院のそばにある、もうひとつの家。ドナルド・マクドナルド・ハウスを知っていますか?
病気の子どもと家族を支える家|第1回・生まれた経緯と日本での役割
記事一覧用紹介文:子どもの治療が遠くの病院で始まったとき、家族はどこで暮らすのでしょうか。ハウスの誕生、日本への広がり、利用の仕組みと最新の変更をたどります。
カテゴリー・タグ:小児医療/家族支援/ドナルド・マクドナルド・ハウス
子どもの治療を受けられる病院が、自宅から何時間も離れていたら。診察や入院の手続きに加えて、家族は今夜の寝床、明日の食事、仕事やきょうだいの生活も考えなければなりません。治療が始まると、患者だけでなく、そばにいる人の日常も大きく変わります。
そんな家族のために、病院の近くで暮らす場所を提供しているのが、ドナルド・マクドナルド・ハウスです。全3回の連載では、この家が生まれた背景、家族にとっての意味、活動を支える人たちを紹介します。まずは、なぜ小児医療のそばに「家」が必要なのかを考えます。
始まりは、家族の居場所をつくること
最初のハウスは1974年、米国フィラデルフィアに開設されました。背景には、白血病の娘に付き添ったアメリカンフットボール選手フレッド・ヒルと妻フランの経験がありました。遠方で治療を受ける子どもの家族が、病院の近くで生活を続ける場所を必要としていたのです。[2]
フィラデルフィア小児病院の小児腫瘍医オードリー・エバンスらが、この課題に取り組みました。フィラデルフィア・イーグルスや地域のマクドナルド、住民の協力が結びつき、家族のための滞在施設が形になります。医療者が目を向けたのは、病気そのものに加え、治療に通う家族の暮らしでした。[2]
日本では、2001年のせたがやハウスから
日本では1999年に財団が設立され、2001年12月、国内第1号のせたがやハウスがオープンしました。国立成育医療研究センターに隣接し、遠方から治療に訪れる家族を受け入れてきました。財団の2026年3月の発表では、国内12カ所での累計利用が、のべ10万家族を超えています。[1][3][5]
拠点と医療機関の関係も具体的です。せんだいハウスは宮城県立こども病院、東大ハウスは東京大学医学部附属病院、ふくおかハウスは福岡市立こども病院などと結びついています。受け入れ対象や施設の状況には違いがあるため、利用は各ハウスの案内に沿って確認する必要があります。[4]
ベッド、台所、洗濯機が支えるもの
ハウスには家族が休む個室と、共用のキッチンやダイニング、洗濯設備などがあります。病院へ行き、合間に食事を取り、着替えを洗い、夜は横になる。治療中心の毎日の中でも、生活に必要な動作を続けられることが、施設の役割です。病院に近い立地は、行き来の負担を小さくします。[4][5]
一緒に滞在する人も母親だけとは限りません。父親や祖父母が付き添ったり、学校のない週末にきょうだいが来たりする使い方が紹介されています。ただし、ハウスは医療行為を提供する施設ではありません。治療を病院が担い、その近くで家族の生活を支えるという関係です。[1][4]
利用料は無償に。実費は確認が必要
日本の全ハウスでは、 4月 1, 2026 から利用料が無償化されました。それまでの1人1日1,000円という負担をなくし、経済的な理由で利用をためらう家族を支える変更です。一方、リネン・ランドリー代などの実費は引き続き利用者負担とされています。[5]
そのため、「無償」という言葉だけで滞在中の出費がすべてなくなると受け取らないことが大切です。病院までの交通費や家族の食費、自宅に残る家族の生活費もあります。利用料の変更は、そのうち宿泊に伴う負担の一つを軽くする取り組みとして理解できます。[5]
利用したいときは、早めに相談する
公式の案内では、病院の受診・入院予定を確定し、診察券番号、診療科、主治医、利用期間、利用する家族の情報などを準備して、希望するハウスへ電話で申し込みます。受付時間や具体的な条件はハウスごとに確認します。申し込みがそのまま部屋の確保を意味するわけではありません。[4]
予約の回答は先着順ではなく、原則として入院の場合は7日前、外来の場合は3日前と案内されていますが、施設によって異なります。発熱などで利用できない場合もあります。医療者が紹介するときも、空室や受け入れ条件を確認する前に「必ず泊まれます」と約束しない姿勢が必要です。[4]
施設の運営状況も更新されます。例えば、せたがやハウスは調査時点で大規模改修に伴う一時閉館中ですが、代替施設で受け入れを継続しています。病院の相談窓口や医療ソーシャルワーカーに、利用できる滞在先を相談することも選択肢になります。[8]
家族を中心に考える医療とのつながり
財団は活動の背景として、Family Centered Care、家族を中心としたケアを挙げています。子どもと家族が共に過ごし、家族の意思を尊重しながら治療やケアへの参加を支える考え方です。滞在先があれば、家族が医療者と話し合い、子どものそばで過ごすための生活条件を整えやすくなります。[1]
ここで忘れたくないのは、家族の参加を支えることが、付き添いを当然の義務にすることではない点です。日本小児科学会は、医学的にどちらでも問題ない場合には、本人と家族の希望や背景を踏まえ、付き添いの有無を選べる環境を求めています。家族の休息と意思も、支援の中心に置く必要があります。[7]
名前が変わっても、家族の暮らしを支える
財団は 10月 1, 2026 から、ブランド名を「ロナルド・マクドナルド・ハウス」、法人名を「公益財団法人 ロナルド・マクドナルド・ハウス・ジャパン」に変更する予定です。本記事では調査時点の名称を使っています。名称とロゴは変わりますが、病気の子どもと家族を支える使命は変わらないと説明されています。[6]
医療を学ぶ私たちは、検査値や治療方針を知ることに多くの時間を使います。同時に、その子の家族がどこで眠り、何を食べ、どんな移動をしているのかを知ることもできます。診察室の外で続く生活に関心を向けると、「治療を受けられる環境」を考える視野が広がります。
次回は、睡眠、食事、仕事、きょうだいとの時間から、付き添う家族の生活を見ていきます。ハウスで過ごすことにどのような意味があるのか、家族の経験と研究の両方から考えます。
参考資料・出典
[1] 財団公式|財団について
[2] Ronald McDonald House Southwest Virginia|History
[3] 財団公式|せたがやハウス25周年募金委員会の発足
[4] 財団公式|ハウスのご利用について・全国のハウスMAP
[5] 財団プレスリリース(2026年3月)|累計10万家族・利用料無償化
[6] 財団公式|法人名・ブランド名・ロゴマーク変更のお知らせ
[7] 日本小児科学会(2024)|入院しているこどもの家族の付き添いに関する見解
[8] 財団公式|せたがやハウスの大規模改修に伴う一時閉館