世界ではどんな場所で働いている? ファシリティドッグの広がりと、続けるための条件
ファシリティドッグの広がりと、続けるための条件
ファシリティドッグを知る|第3回・海外事例とこれからの医療
記事一覧用紹介文:米国の小児病院、豪州の救急部門、司法の現場へ。海外事例から、犬と人の専門性、安全管理、動物福祉、継続的な運営を考えます。
カテゴリー・タグ:国際医療/チーム医療/動物福祉
ファシリティドッグが働く場所は、小児病棟にとどまりません。海外の事例をたどると、救急部門や司法の現場など、強い緊張を抱える人を支える場所にも広がっています。連載の最終回は、そうした活動と、継続のために必要な仕組みを見ていきます。
米国:小児病院の治療目標を一緒に支える
米国のSt. Jude Children’s Research Hospitalは、2019年にPaws at Playを開始しました。導入時にはPuggleとHuckleberryがチャイルド・ライフの専門職とペアを組み、子どもの処置や療養を支援する体制が紹介されています。犬の休憩を挟みながら活動する計画も、当初から示されていました。[1]
同院が過去の活動を振り返った記事には、CT検査に付き添ったHuckleberryと交流し、その回の検査を鎮静なしで受けられた子どもの事例があります。これはある子どもにとっての大切な経験ですが、全患者で鎮静を不要にできるという証明ではありません。個別のエピソードと、治療方針を決める根拠は区別して受け止めたいところです。[2]
Children’s Hospital Coloradoも2019年にMedical Dog Programを開始し、複数の拠点で展開しています。処置中の支援や体を動かすきっかけづくりなどを、臨床スタッフが担当します。同院にはボランティアの訪問プログラムもあり、目的に応じた仕組みが併存しています。[3]
オーストラリア:救急部門で患者とスタッフを支える
Guide Dogs Tasmaniaは2021年、Launceston General Hospitalの救急部門にファシリティドッグGilbertを配置したと報告しました。救急部門の責任者である医師と暮らし、共に働く犬として紹介されています。[4]
活動報告には、患者との関わりに加えて、緊張の高い対応を終えた看護師が犬に触れ、気持ちを落ち着ける場面も登場します。小児医療に限らず、職員の過ごす環境にも目を向けた実践例です。ただし、これは導入・活動の報告で、燃え尽きや離職を減らす効果を比較試験で示したものではありません。[4]
病院の外にもある、緊張の強い場面
西オーストラリア州では、2021年にPerth Children’s Courtへの司法ファシリティドッグ導入が発表されました。病院での治療支援とは異なり、司法手続きに関わる子どもや家族などへの情緒的な支援を目的とする取り組みです。[5]
育成団体Canine Companionsも、医療、特別支援教育、子どもの権利擁護や司法面接などを活動領域に挙げています。「どの施設で、誰の、どんな困難を支えるか」によって、犬と人のチームに求められる役割が変わることがわかります。[12]
海外の犬の活動を、ひとまとめにしない
英国のGreat Ormond Street Hospitalでは、ボランティアとして訪問するセラピードッグが紹介されています。運動への参加を後押ししたり、検査前に訪問したりする活動もありますが、日本で紹介してきた常勤型の仕組みと同じとは限りません。[6]
国際的な取り組みを比べる際には、名称だけでなく、育成・評価の方法、活動頻度、ハンドラーの職種、病院が定める役割まで確認する必要があります。訪問型と常勤型のどちらを生かすかも、施設の目的と体制を踏まえて考える課題です。
安全は、病院とチームがつくる
犬が病院で働くには、人への好意や訓練だけでなく、感染対策が必要です。CDCの医療環境感染対策ガイドラインは、動物との接触後の手指衛生、獣医師による健康管理、適切な訓練、実施場所のリスク評価、アレルギー対策などを示しています。免疫機能が低下した患者への活動は、症例ごとに適否を評価する方針です。[7]
東京都立小児総合医療センターも、独自の運用マニュアルに基づく感染予防と医療安全を明記しています。ある施設で手術室への付き添いが実施されていても、別の施設で同じように行えるとは限りません。患者の希望や状態、周囲の人への配慮、犬の健康、院内ルールを合わせて判断する必要があります。[8]
犬とハンドラーにも、無理のない働き方を
続けるためには、犬の暮らしにも目を向ける必要があります。シャイン・オン!キッズは、望ましい行動をほめて伸ばす陽性強化を中心に育成し、健康や性格から別の暮らしが適すると判断した犬については、キャリアチェンジの仕組みを設けています。[9]
ハンドラーは病院での活動に加えて、犬との生活も担います。同法人のQ&Aでは、犬との共同研修が必要なことや、ハンドラーの休日を支える預かりボランティアの育成も紹介されています。支援する人と犬を支える体制が、活動の継続につながります。[10]
導入の先にある、費用と継続の課題
国立成育医療研究センターは、犬の健康管理やトレーナーのフォロー、ハンドラーの人件費など、直接経費として年間約1,000万円が必要と説明しています。同センターでは、ファシリティドッグの活動は診療報酬制度の対象ではなく、寄付で運営していると案内しています。これは同センターが示す費用であり、すべての施設に共通する価格表ではありません。[11]
導入後も休暇や病気への対応、犬の引退と後任育成が必要になります。どれだけ多く訪問したかに加えて、患者の苦痛や生活にどう関わったかを確かめることも、継続を考えるうえで大切です。海外の実践から学べるのは、犬と人の専門性を生かせる場を、運営の仕組みとともに育てていく視点ではないでしょうか。
医学生として、ここから考えたいこと
3回を通じて見えてきたのは、ファシリティドッグが、患者の経験や気持ちに目を向けるきっかけになるということです。診療の手順に加えて、その時間を本人がどう過ごすのか。家族やスタッフ、そして犬にどんな支えが必要か。こうした問いは、将来どの診療科に進んでも持ち続けられます。
まずは公式の活動報告を読み、自分が見聞きする医療の場面と重ねて考えるところから始められます。シャイン・オン!キッズは、患者のプライバシーと感染対策のため病棟での活動見学は受け付けていないと案内しています。活動を知りたいときは、公式サイトや公開されている情報を活用しましょう。[10]
参考資料・出典
[1] St. Jude Children’s Research Hospital|PuggleとHuckleberryの導入発表(2019年)
[2] St. Jude Children’s Research Hospital|Puggle、Huckleberryの活動を振り返る
[3] Children’s Hospital Colorado|Medical Dog Program
[4] Guide Dogs Tasmania|Gilbert the Facility Dog(2021年の導入事例)
[5] 西オーストラリア州政府|Perth Children’s Courtへのファシリティドッグ導入(2021年)
[6] Great Ormond Street Hospital|Meet the GOSH therapy dogs
[7] CDC|医療施設における動物との接触・動物介在療法の感染対策(2003年ガイドライン、掲載ページ2024年更新)
[8] 東京都立小児総合医療センター|シャイン・オン!キッズとの連携について
[9] シャイン・オン!キッズ|ファシリティドッグ育成事業
[10] シャイン・オン!キッズ|ファシリティドッグ・ハンドラー Q&A
[11] 国立成育医療研究センター|マサの部屋
[12] Canine Companions|Facility Dogs