
付き添う家族は、どこで眠る? 食事・仕事・きょうだいから考える小児医療
病気の子どもと家族を支える家|第2回・付き添い家族の生活と支援の意味
記事一覧用紹介文:子どもの入院は、家族の睡眠や食事、仕事、きょうだいの生活にも影響します。全国調査と公開された家族の経験、睡眠の研究から、滞在支援の意味を考えます。
カテゴリー・タグ:小児医療/付き添い入院/家族支援
子どものベッドのそばで一夜を過ごすことと、十分に眠れることは同じではありません。病状を気にしながらの夜、食事を買いに出る時間、家に残した子どもからの連絡。家族の一日は、診察や処置が終わった後も続きます。
前回は、ドナルド・マクドナルド・ハウスの歴史と仕組みを紹介しました。今回は、付き添う家族の暮らしから、その意味を考えます。病室で寝泊まりする「付き添い入院」と、ハウスなどに滞在して病院へ通う生活は分けて捉え、どちらにも必要な支援に目を向けます。
調査が映す、休めない家族の姿
認定NPO法人キープ・スマイリングが2026年7月に公表した「入院中の子どもに付き添う家族の生活実態調査2025」は、付き添い・面会経験者からインターネットで回答を集めた調査です。有効回答は全体で1,198人。睡眠の設問では、熟睡感を5段階で尋ねたうち「1(ない)」が47.6%、「2」が32.4%でした。[1]
両者を合わせると80.0%になります。ただし、これは回答者における結果であり、日本のすべての付き添い家族の割合を直接表すものではありません。団体の支援を受けた家族などを通じて募集しており、長期入院や重い病気の子どもに付き添った家族が比較的多いという特徴もあります。[1]
台所があっても、料理する余裕はあるだろうか
ハウスの共用キッチンでは、自分や家族のために調理することができます。洗濯設備もあり、病院の近くで生活を整える場所になります。公式に紹介される過ごし方には、付き添いの合間にハウスへ戻って食事を取り、洗濯や休憩をする様子が含まれています。[2]
一方、調理設備があるだけで食事の問題がすべて解決するわけではありません。買い物や料理に手が回らない日に、誰かが用意した食事は助けになります。ハウスではボランティアなどによるミールプログラムも行われていますが、公式案内では不定期の実施です。毎日3食が提供されるとは限りません。[3]
家族が語る「生活を取り戻す」時間
財団のファミリーストーリーには、息子の治療のため山梨から東京へ来た家族の経験が掲載されています。母親は、ハウスを利用して睡眠や食事の環境を整えられたことが、翌日も子どもを支える気持ちにつながったと振り返っています。医療処置の合間にも、人には暮らしを続ける場所が必要なのだと伝わります。[4]
別の家族は、同じ病気の子どもを持つ家族との情報交換が、不安を軽くする助けになったと語っています。これらは公開された個々の体験です。すべての家族に同じ変化が起きるとは限りませんし、人と話したい日も、一人で静かに過ごしたい日もあるでしょう。その違いを尊重できることも大切です。[4]
仕事と家計は、入院中も続いている
先ほどの全国調査では、何らかの経済的不安を感じるという回答が78.1%でした。「とても感じている」「感じている」「やや感じている」の合計です。家計の負担は宿泊費だけで決まらず、交通費や食費、家族が仕事を休むことによる収入への影響も含めて考える必要があります。[1][5]
第1回で紹介したハウス利用料の無償化は、こうした負担の一部を軽くする変更です。それでも、家族の勤務先や働き方、自宅との距離によって事情は異なります。医療者が家族の滞在予定を尋ねるときには、仕事を休めるか、交代できる人がいるかといった生活上の条件にも目を向けたいところです。
きょうだいにも、続いている毎日がある
病気になった子どものそばで過ごす時間が増えると、家に残るきょうだいとの時間をどう確保するかという問題も生まれます。財団が紹介するある家族では、母親と治療中の子どもが東京、父親と娘が浜松で暮らし、週末を使って家族が集まっていました。一つの入院が、二つの場所での生活につながっていたのです。[4]
ハウスの公式案内にも、普段は自宅で学校に通うきょうだいが、週末だけ滞在する例があります。ただし、滞在できることと、入院している子どもに面会できることは別の確認事項です。病棟の面会条件や感染対策、子どもの状態を踏まえて、病院とハウスの両方に相談する必要があります。[2]
家族全員が一緒に過ごす機会をつくることと、自宅側の学校や生活を保つこと。その両立の仕方は家庭ごとに違います。きょうだいについて尋ねることは、家族に新しい役割を求めるためではなく、これまで見えていなかった困りごとを知る入り口になります。
親の睡眠を比べた研究からわかること
2014年の学術誌に掲載された小規模な比較研究では、入院中の子どものベッドサイドで眠る親27人と、病院敷地内のRonald McDonald Houseで眠る親11人が調べられました。手首の活動量計と質問紙を用いた結果、ベッドサイドの群では途中で目が覚めている時間が多く、睡眠の質や休めた感覚も低い傾向が示されました。[6]
ただし、対象は計38人で、宿泊先を無作為に割り付けた試験ではありません。子どもの状態など、宿泊先と睡眠の両方に関わる要因も考慮が必要です。この研究は親の睡眠についての知見であり、ハウスを利用すれば子どもの治癒率が上がる、入院期間が短くなるとまでは言えません。[6]
「休んでいい」を、実際に休める支援へ
家族に休息を勧めても、子どもを安心して任せられる体制や、横になれる場所がなければ実行は難しくなります。日本小児科学会は、付き添い者を看護の代替としないこと、付き添いの有無にかかわらず子どもと家族の心身・社会生活を守ることを求めています。宿泊支援と病棟の体制は、両方を考える必要があります。[7]
医療を学ぶ私たちにも、家族が食事を取れているか、夜に眠れているかを尋ねる機会はあります。その答えを聞き、家族の希望を確かめ、担当スタッフや相談窓口につなぐ。そんな関わりを通して、家族を「付き添う人」であると同時に、支援を必要とする一人の生活者として捉えられるのではないでしょうか。
次回は、その生活を受け止める家を誰が支えているのかを紹介します。日本のボランティアと寄付の仕組み、英国やオーストラリアの取り組みから、支援を続けるための条件を考えます。
参考資料・出典
[1] キープ・スマイリング(2026年7月)|家族の生活実態調査2025(pp.4–5、84、109)
[2] 財団公式|ハウスのご利用について・家族の一日
[3] 財団公式|ボランティアに参加する・ミールプログラム
[4] 財団公式|ファミリーストーリー
[5] 財団プレスリリース(2026年3月)|利用料無償化の背景
[6] Franck L, et al. Behav Sleep Med. 2014;12(4):307–316|親の睡眠の比較研究
[7] 日本小児科学会(2024)|入院しているこどもの家族の付き添いに関する見解